昭和の縁日 技 「樟脳舟(しょうのうぶね)」

樟脳舟 昭和30年初頭の夏、諏訪神社のお祭りが8月の下旬に開催されます。現西日暮里駅の脇にある急勾配な坂道を上がっていくと、坂の途中から登につれて聞こえるお囃子の音が大きくなってきます。子供の私はワクワクで、だんだんと早足になっていきます。

 諏訪神社の境内に近づくと色鮮やかな光景が目に入ってきます。境内の入口近くに決まって出ているのが名前の解らない「砂糖菓子」の露店があります。この露店で売っているのは色々な形で着色もされていて、見ているだけでも楽しかった見るだけの露店でした。

 何故、見るだけかと言いますと「高い、まずい?」子供ながらに一度一番安い「小石」を模した物を買って食べたら1個食べただけで食が進まないお菓子となっていました。しかしながら演出と言いますか、そこに販売されている色々な造形の「砂糖菓子?」を組合せ日本庭園のような大人の表現で言えば「枯山水」とでも言えるような盆景が出来ているので立ち止まって見ている人は多かったです。

 境内の参道に入ると子供の目で見れば別世界でした。見た目と色々な食べ物の混ざった匂いも子供成に大きな刺激を受ける状況でした。とにかく人混みと、お神楽の大きな音とともに目に入ってくる原色の色彩は大きく子供の神経を刺激しているのでした。

 歩きながら子供なりに自分の持っている小遣いの使い方を考えるのも楽しみの一つでした。当時は日暮里駅までの長い距離の道に露店が出ていました。それだけ種類も多くかった時代でもあります。縁日の露店の配置は、ほぼ毎年決まっています。諏訪神社の境内と日暮里駅方向の参道が終わる所から富士見坂のあたりまではほぼ変わりません。

 この富士見坂を越えるあたりからは毎年常設の露店もあるのですが、わりかし露店の入れ替えが多い場所でもありました。なので私は境内の中を一巡してから日暮里駅方向の端の方までどんな露店が出ているかを見てから戻ってくるのが縁日の楽しみ方にしていました。

 前振りが長くなりましたが途中にある富士見坂の近辺が毎年入れ替えの多い場所でもあり、ここに「樟脳舟」の露店が出ていたのです。この近辺は「樟脳舟」、「おかやどかり」、「十徳ナイフ」、「木目込み人形売り」、「ガラス玉」、等々、ちょっとタイプの違う色々な露店が出ていました。

 本題「樟脳舟」の露店は大きな「タライ」に水をはり、その中に当時は「セルロイド」で出来ている簡素で小さな「舟」を模した色々な形で色とりどりの舟がタライの中で動いているのです。子供ながらに動力も無いのになんで動くのか不思議でした。

※セルロイドとは当時、成形しやすいことから色々な成形品に使われていました。しかし、可燃性が高く熱源があると瞬間に燃え上がることから事故も多く使用禁止になった素材でした。その後プラスチックが世に出てからはセルロイドはすべて泣くなりました。

 しゃがみ込んで見ている子供、大人も立ち止まってみている。当然、買っていく子供、大人もいました。時折、手に持った「はたき」みたいな物で水の中をかき回しています。何をしているかは解らずでしたが、大人になって判った事ですが、どうやら水に溶け出している「樟脳」を取り払っていることだったようです。

 「樟脳舟」の動く原理はルロイドで造形された舟の後部に「樟脳」を置くための「突起」があり、その場所へ「樟脳」の欠けらを乗せることで、その部分が水に触れ、触れることにより溶け出していることでそのエネルギーの推進力で水に浮かんでいる「舟」が動く仕組みの本当に単純な玩具です。

 しかしながらタライの中の水をずっと使っていると商品の「舟」の動きが悪くなるので水の補修で小さなホウキのような物で水面に浮いている溶け出した樟脳を取り除いていたようです。他愛のない素朴な一時の子供の玩具でしたが、原色の派手な色で組合わされた船体に魅力を感じ買っていったのでしょう。

 本当に短命で縁日から姿を消した「樟脳舟」の思い出でした。これは他所の縁日でも見かけることはありませんから露店商の業界的にも消滅していたのかも知れません。

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