羅宇屋(らうや)
煙草が日本に入ってから愛煙家の必需品である煙管(キセル)。煙草と言えば紙巻煙草が当たり前の時代となり、見かけることも無くなってしまった煙管専門の修理と掃除、販売を専門にしていた職人仕事の羅宇屋。
羅宇屋、これって何と思われる方がとても多いと感じますので、やはりご説明いたしましょう。最初は煙管(キセル)の話から、時代劇などでも煙草を吸うシーンがあると長いパイプのようなものの先に、ちょいと丸めた刻み煙草を詰めて火を付け一服と言った具合。
昭和の時代では紙巻煙草などもあったのですが、煙草が好きな人はどうしても煙管の味が好みで使用していたようです。私の父と祖母がそのままに、紙巻煙草を一本吸うよりも、ほんの少し味わえれば良いとの思いで使用していました。
子供なりに見ていると、ほんの二三回吸うと無くなり、燃えかすを灰皿の中に捨てていました。あたりまえですが、ヘビースモーカーには面倒なものかもしれません。このキセルの構造は火皿・雁首(ガンクビ)・羅宇(ラウ)・吸口と名称があり、分解すると3つの部品(真鍮・竹・真鍮の順)となる。
普段、使用していると煙草にはヤニがつき物ですから管の中にヤニで詰まって、吸い心地が悪くなったり竹の部分がわれたりしてひどくなると使用できなくなってしまう。ここに登場するのが羅宇屋です。
要するに、煙管(キセル)の修理と清掃が専門の職人なのです。特徴は装束とピーーと音のする小さなリヤカーを引いてくるため、離れていてもすぐにそれとわかる。
頭には菅笠(すげがさ)をかぶり、黒のパッチ(肌にぴたっと合った股引のようなもの)を身に着け、小さな前掛けをかけ地下足袋でリヤカーを引いてくる。
私の祖母と父親が当時、煙管を使っていたので、この音がすると煙管を持って掃除の注文をしに行くのが私の役割でした。
ピーーと音のする原理は、羅宇竹を加工するために小さなボイラーのようなものを稼動させ蒸気が出ている。この煙突に笛を付け蒸気の圧力を利用し鳴らしているためです。
何とも合理的で粋な宣伝ですが、そばで聞くととても甲高く耳障りでした。羅宇竹とはラオス産の竹でキセルに向いていたようです。お客さんがキセルを持っていくと、その場で預かり一時間程度で新品同様にしてくれます。
その作業をそばで見ていると、いとも簡単に分解してしまう手つきのよさはさすがプロの職人。掃除だけの場合と竹の交換、金具の交換など色々と対応していました。
工賃はいくらだったか忘れましが、普段のものですのでそんなに高くはなかったような記憶があります。またリヤカーには道具箱のほかショーケースもあり、彫り物がしてあるような高価なものから、一般の価格の商品までが数は少ないですが陳列してありました。
時代の変化とともに煙管を使用する人も少なくなり、羅宇屋さんも見かけなくなりました。唯一、数年前まで浅草雷門のそばで、がんばって羅宇屋を営んでいた方もいなくなり消滅してしまったのでしょう。
追記
無賃乗車のことを「キセル」の呼称として使われますが、この名称の由来がまさしくこの「煙管」から付いていること。煙管の両端が金物で中間の部分は竹ですので、この間は安くすみ運賃をごまかすことを「キセル」と呼ぶようになりました。